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Visiting - Gabriella Kiss

Living with Nature 2018.07.23

数えてみたら、これで5度目の訪問になる。マンハッタンでレンタカーをピックアップして、2時間ほど北上すると、行き交う車はかなり疎らになってくる。この辺りはUpstate New Yorkと呼ばれるエリアだけれど、「ニューヨーク」という言葉の響きからはかけ離れた、緑あふれる豊かな自然が広がっている。初めて来たときには、こんなところに?と半信半疑でハンドルを握っていたことをよく覚えている。ハイウェイから反れてしばらく走ると、小さな街があり、さらに脇道を入ると、一際目立つ背の高い建物がある。19世紀に建てられたという元教会で、ガブリエラは夫のクリスと、2匹の愛犬と共にここで暮らしている。そして通りを挟んだ向かいに、可愛らしい平屋があり、そこがガブリエラのスタジオになっている。

スタジオのドアをノックすると、ガブリエラと職人さんたちが迎えてくれた。約1年半ぶりの再会となる。まずはショールームでガブリエラが淹れてくれたカプチーノをいただきながら、お互いの家族の話、趣味のスキーの話などをした。そして「新しく作ったクラウドを載せたらすごい問い合わせがきちゃって」と、最近始めたインスタグラムの話で盛り上がった。その流れで楽しみにしていたCloud Earringsを見せてもらう。想像していた以上にボリューム感があり、その愛らしいカタチのユニークさが際立ち存在感を放っていた。もちろんその場でひとつ分けてもらう。そして予め注文していたスネークのシリーズなどを受け取り、その後「Take your time」の合図でガブリエラは作業に戻り、ひとりの時間になった。ショールームのケースに収められているモノや、ディスプレイされているモノをひとつひとつ手に取って、じっくり選ばせてもらう。すべてが1点モノとなる天然石のリングが徐々にトレイに並んでいく光景は、毎回ワクワクする楽しい時間。なかなかいいセレクトができたと満足しながら、次は建物内をウロウロする。

奥の作業場では長く製作を担当しているひとり、マルーが金の板をハンマーで叩いていて、ちょうど先程ピックアップしたScallop Earringsを製作しているところだった。決して強い力ではないが、少しずつ形を変えながら、テクスチャーと輝きが増していく様に見とれてしまった。彼女の周りにはハイテクな道具や機械はない、ハンマーやヤスリ、バーナーなど、多くのモノが原始的な方法で作られ、彼女たちの作るモノは卓越したクラフトマンシップによって支えられていることが分かる。

中央の作業台の上には、途中まで仕上げられたジュエリーと並んで、どこかで拾ってきた植物の破片や鳥の羽、貝や珊瑚などが大切そうに置かれている。キノコを手に取って、「綺麗でしょ」と目を輝かせるガブリエラ。僕には正直、本当に美しいとは感じられなかった。ガブリエラは小さな世界に興味があるという。僕には見えない、もしくは見ようさえしない小さな存在の中に、美しさを感じているのだろう。また当たり前に存在しているモノが、ジュエリーというカタチに変わることで、目線や意識が変わり、驚きや感動を与えてくれるのかもしれない。ガブリエラは幼い頃から、何かを集めてネックレスを作ったり、何かを模写したりしていたという。遊びとして楽しんでいたことが、今も変わることのない彼女のスタンスなのだろう。

帰路に着く前、今年の夏にはプールが完成すると、嬉しそうに話してくれた。今度来るときは水着を持ってくると約束しながら、きっと水を得た魚のごとく、何か新しい発見をするはずと、すでに次回の訪問が楽しみになった。そして後ろ髪を引かれながら車に乗り込んだ。

TEXT : 杉山慎治